正倉院展



奈良の国立博物館の「正倉院展」に行く。戦後にはじまった正倉院の宝物(当時は「御物」といったそうだ)の公開ももう第61回になったそうだ。私は、井上靖の『天平の甍』が好きで、何も知らないけれども天平時代に憧れている単細胞だから、正倉院展にはずっと行きたいと思っていたけれども、実は今回が生まれて初めての正倉院展である。行ってとてもよかったし、これから何回も行けるといいなと思う、素晴らしい時間だった。

やっぱり、目玉の展示である、琵琶と碁盤が目を引いた。「紫檀木画槽琵琶」(したんもくがそうのびわ)と桑木木画碁局(くわのきもくがのききょく)。琵琶にはきっと文様の世界では有名な「花喰い鳥」が「木画」という技法(木の板の上に色々なものをはめ込むモザイクのような技法らしい)であしらってある。オシドリが花の枝をくわえているという、豪華だけれども親しみやすい主題。それ以外にも様式化された鳥が舞っていて、それはそれは美しい。碁盤のほうも、盤の側面に同じ木画の技法で装飾がしてあり、碁盤の目をつくりだしている白線は象牙を細く削ったものをはめ込んでいる。碁というのは、将棋に比べて抽象性が高くて、碁盤といい碁石といい、装飾を剥ぎ取って極度に簡素化された様式が、禅寺の僧侶の雰囲気にも似合うように思っていたんだけれども、そうか、もちろん、華麗な碁盤があってもいいんだ。