文通診療

必要があって、18世紀イギリスの文通診療の研究書を読む。文献は、Wild, Wayne, Medicine-by-Post: the Changing Voice of Illness in Eighteenth-Century British Consultation Letters and Literature (Amsterdam: Rodopi, 2006).

ロイ・ポーターが切り開いた18世紀イギリスの「患者の歴史」の問題系の研究。資料としては「文通診療」と呼ばれるジャンルの歴史資料が使われていて、主な医者の名前で言うと、1) 王立協会のセクレタリーで人痘の統計的研究で注目されたジェイムズ・ジューリン、2) 当時の人気医師で、小説家のリチャードソンとも交友があったジョージ・チェイニイ、3) エディンバラ医学校の教授で,アダム・スミスやデイヴィッド・ヒュームらスコットランド啓蒙の偉大な思想家たちと知己であったウィリアム・カレンの三人の文通診療のアーカイヴを使っている。それ以外にも、当時の文人や有名な医師が残した手紙類を使い、賛否両論あるところだろうが、文学作品も使っている。使っている概念装置も、医療倫理の原型ができあがり、かつての古典の学問や科学の「知識と教養」が強調される医者のアイデンティティから、共感を強調するより柔らかな医者の像に変わってきたことを下敷きにして、「関係構築と説得の手段」として文通診療を解釈するものになっている。大まかにいうと、文学と物語の理論と医者-患者関係の医療倫理の視点から、文通診療を読み解く仕事である。