「卒都婆小町」

三島の戯曲を読んだあと、数点、能の原作を読んでみる。老女の物狂いが出てくる「卒都婆小町」について書くのは、憶えておくと研究のヒントになるかもしれないという浅ましい考えもあるが、最近、老いを取り上げた話が心に響くということもある。岩波の古典大系の古い版の『謡曲集 上』に収録されている。わずか数ページの作品。

かつての美人が零落して乞食となって漂泊した話を中心に、仏教の話や王朝の恋物語など、色々な主題を重ね合わせて作品にしている。前半では、老女が卒塔婆に腰掛けていたのを二人の僧がとがめたのに対し、逆に老婆に反駁され、「悪といふも、善なり、煩悩といふも、菩提なり」と論破されるという話。後半では、老婆が自分は小野小町のなれの果てであると名乗り、かつての花容輝くような美人が、ぼうぼうの白髪、破れ笠に破れ蓑、垢じみた衣を背負って物乞いをしてあるく対比が痛ましい。そして、突然、小町が何かに憑かれたように、声が変わって異様になり、かつての数多い恋人の中で、九十九夜通ったがついに思いを遂げられなかった深草の少将の幻覚を見る。「一夜を待たで死したりし、深草の少将の、その怨念が憑き添ひて、かように物には狂はするぞや」。

これは、三島の創意と、原作の深さの双方が印象付けられた。