香月牛山 老人養草

必要があって、江戸時代の養生論を読む。文献は、香月牛山「老人養草」、桑田立斎「愛育茶譚」など。どちらも日本衛生文庫に収録されている。 

香月から、想像上の歴史学と形態学と養生論を組み合わせた曲芸的な議論をひとつ、桑田からは、なぜ都市が不健康なのかという議論をひとつ。 

本邦の人は中華の人に比べれば、形態も気血も薄く弱い。魚類、鳥は養生にかなっているが、獣の肉はよろしくない。そもそも、獣の肉は、文明人のものではない。天地が開け始めたときは、気候も悪く、「気化」の人も多く、その形はあやしく、頭に角が生えて、歯も上下にくいちがっていて、鬼牙が生え、歯先も揃わずにとがっていた。獣の肉を生で食っていたのがこの連中である。そのうち気候が和らいで「気化がやんで形化になり」、あやしい形の人も生ぜず、角も鬼牙もなくなった。すると、肉を食わずとも、五穀五菜でよく、また、尖っていない歯でも絶ち切れる鳥や魚の肉が適している。


都下には名医が多く貴薬があるにもかかわらず短命で、一方寒郷の幼児は医薬も乏しいのにかえって長命である。市中では、人は子供の智を増すことのみを欲する。
上体が陽、下体が陰。この上の陽が降りてきて、下の陰が上るときに、健康になる。江戸では、他国よりも風と雷が多く、陽気がさかんである。大人でも逆上より起きる病気が多く、小児は活発で萌生の機が過度に盛んだから、脳に病気を発することが多い。 母子ともに飲食が厚美にすぎ、運動は少ないから、気血が上部へ、頭脳へのぼる。頭にできるかさぶたは、その子が元気旺盛になるに従って、血中の遺毒を体外に排除する便路を得たものであるから、発泡膏で誘導せよ。