鎖国は日本を健康にしたか

Jannetta, Ann Bowman, Epidemics and Mortality in Early Modern Japan (Princeton: Princeton University Press, 1987)

日本の徳川時代の前半は目覚ましい人口増加があり、後半は人口の停滞があった。16世紀から1700年くらいまでに人口は3倍近くなって約3000万人になり、それから19世紀の半ばまで、ほぼその数値で変化しなかった。この劇的な人口レジームの変化をどう説明するか、明治維新以降の世界でただ一つの非西欧圏の国家の近代化という世界でもユニークな現象とどう関連しているのか問題は、歴史人口学者たちをはじめとする日本史研究の一つの焦点である。この安定的な人口は、多産多死でも少産少死でもなく、いわば中産中死とでもいえる、前近代の世界にしては比較的低い死亡と出生が均衡していることによって達成されていた。このレジームの死亡の部分に光を当てたのが本書である。

検討した病気は基本的には四つ感染症(群)である。天然痘、麻疹、流行性の痢病、コレラである。このうち、人口に大きく影響したと言えるのは天然痘だけであった。長期にわたって死因別の死亡データをとれるのは飛騨のO寺院のものだけで、そこで1770年から1850年のデータをとると、全死亡の10%程度、10歳未満の死亡でいうと20%程度が天然痘によるものである。この天然痘による死亡を取り去ると、彼らが成人して子供を産むわけだから、人口は着実に増加に向かっていたはずである。

天然痘は国内に常在しており、流行は小地域においてもモザイク状となっていた。これは、外国から輸入された病気でも何でもない。

ジャネッタは、鎖国による孤立と海と言う防疫線が、日本の徳川時代の人口レジームに大きな影響を与えたと主張している。海による孤立が関係あるのはもちろん分かるけれども、関係の在り方が鮮明に描かれていない。別の箇所でジャネッタが書いている通り、海による孤立が重要だったのは、元寇を退けることによりペストの伝搬圏の中に組み込まれることを免れたこと、時代でいうと中世の話だと私は思うんだけど