マクニール『世界史』

必要があって、マクニールの『世界史』を読む。世界の歴史を読める長さの一冊の本にまとめるという難事を成し遂げた書物で、同じ著者の『疫病と世界史』で授業をするときの背景を少し詳しく知りたいときには読むことにしている。中公文庫で二冊本で出版されている。

基本的な説明の装置は非常に簡単である。そのシンプルさに辟易する人もいると思うけれども、それが魅力でもある。世界の色々な文明の間のバランスは、ある人間のグループが他に抜きんでて魅力的で強力な文明を作り上げた時にかく乱されるというものである。時代が変わるにつれて、世界をかく乱させる焦点が変わる。紀元前500年までには、ユーラシア文明の四つの型―ヨーロッパ、中東からペルシャ、インド、中国―が確立され、それから1500年まで、世界の文明の中心地のどれか一つが抜きんでるということはなかった。ギリシア文明(アレクサンダー大王)、インド(仏教)、イスラムは、それぞれ諸文明間のバランスを崩しそうになったが、四つの文明圏はその独自性を守り続けた。このバランスがついに崩れたのが、近代であり、その撹乱の中心はもちろんヨーロッパであった。1500年から1650年までの間に、ヨーロッパはその内部で新しいバランスを完成させ、1800年からの、産業革命と民主主義を組み合わせた強力なモデルは、世界の各地を征服・同化させた。1850年までには、トルコ、ムガール、中国、日本などは、ヨーロッパの前に壊滅するか、屈服するか模倣しなくてはならなくなっていた。

このストーリーラインを補完する初期の重要な装置が、四大文明の周辺に位置する遊牧民文化である。遊牧民は好戦的で、馬を所有していて軍事的な優越を持っていた。農耕と遊牧という二つの生活スタイルが分離したことによって、変化の幅が増し、衝突によって世界が変化する可能性が大きくなった。この遊牧民文化が作り上げたユーラシアを横断するモンゴル帝国が中世のペストの通り道になり、中国帝国と遊牧民の戦いが、中国に天然痘をもたらして、天平の日本に襲い掛かったということになる。