『西遊記』(一)

妖怪ものの一大傑作ということで『西遊記』を読みだす。中野美代子の訳で、岩波文庫で全10巻という大作。練り上げられた親しみやすい現代文に、詩歌の訳は日本語の字数をそろえる凝りよう。そして学問の蘊奥を極めた詳細で魅力的な訳注。原典からのオーセンティックな挿絵。全巻そろえると少し高いけれども、この翻訳を文庫本で読める文明国に暮らす幸せを実感させてくれる。

第一巻は石猿が生まれてから、修行をし、天帝のもとに呼ばるが大暴れをして天帝の軍隊と対決して、これとは互角以上に戦うも、如来さまの掌の外に出ることができず、五行山の下に封じ込められて、西にお経を取りに行く人を待つところまでの話。もちろん話の大筋は知っているけれども、随所に「こんな話だったのか!」という発見と感動があった。道教の影響なのだろうが、あちこちに生殖と生成の話が出てくる。たとえば、孫悟空の誕生は、石が天地の霊気と日月の精気を受けてこれに感応して孕んだものである。猪八戒は、もとは天の川の役人が酔って女神にいたずらして罰せられて下界に落とされたときに、間違って豚の体内に落とされてできた人と豚のハイブリッドである。

私が昔読んだ子供向けのリライトでは全く抜けていた話が、第9回、10回だった。9回の冒頭で、物語の筋とは無関係に出てくる、二人の高士が、それぞれの生活が満ち足りていてしかも自由であることを詩歌で自慢しあうところは、とてもいい感じだったし、10回に出てくる太宗皇帝の冥界下りは、地獄に金貸し業があったりして(笑)、とても洗練されていた。