国際政治と公衆衛生

必要があって、20世紀の国際政治と公衆衛生についての最新の論文集を読む。文献は、Solomon, Susan Gross, Lion Murard and Patrick Zylberman eds., Shifting Boundaries of Public Health: Europe in the Twentieth Century (Rochester: University of Rochester Press, 2008). 

国際政治学の視点や比較制度分析という手法を使った医学史の仕事をときどき読む。程度の差はあっても大なり小なりの違和感を持っていたけれども、日本の医療の歴史の特徴、特に医療制度の歴史の特徴を外国人の学者に説明するときには、比較制度分析などの手法のイロハのイくらいは知っておいたほうがいい。Peter Baldwin の一連の著作を読んで深く感銘を受けたという理由もある。

論文集の本体は、国際連盟とか国際衛生会議、ロックフェラー財団などの国際的なフィラソロピーの大物など、そもそもの話題からして国際政治学の視点を必要とするものが多くて、私が期待しているようなものはなかったけれども、ヒントがたくさんあった。特に編者たちによるイントロダクションは、国際協力が成り立つための「認識論的コミュニティ」(epistemic community, P.M. Haas) だとか、問題解決のための「読み取り可能性」の付与(legibility, James Scott ) など、私が知らなかったキーコンセプトが紹介されていた。目下の問題を考えるためのヒントとしては有望で、かなり気分が明るくなった。時間ができたら読もう。というか、これを読むための時間を早く作ろう(笑)

ボールドウィンのエイズ対策の国際比較論は、別の書物の内容の要約だけれども、筆が乗ってのびのびと書いているので、やはり大学院のマテリアルとして最適。