西遊記(九)

西遊記の後半部分は三蔵の「男性性」が狙われるという主題の話が多い。登場するのも女性の妖怪になって、物語の前半では、こわもての妖怪との死力を尽くした歌舞伎の「荒事」のような大立ち回りが多いのに比べて、後半では、おんなの妖怪が三蔵を誘惑する「濡れ場」が多い。こういったエピソードのあらましは、子供向けの西遊記からは削除されている。この巻も、女怪が三蔵を誘惑するエピソードから始まる。もとはといえば金鼻白毛のねずみであるが、下界に落ちて地湧夫人と名乗っている妖怪である。寺の小坊主のような若い男を誘惑しては、食って骸骨だけにしてしまう女妖怪だったが、これが三蔵に目をつけて、誘惑してその「精」を得ようとする。悟空の計略で、この女妖怪にだまされたふりをして、三蔵と女妖怪が桃園で桃をもいで食べさせあっている箇所は、一幅の恋愛画のように甘くて、三蔵はこの役回りを喜んでいるのではないかと思うようなところである。