乞食が上昇するまで

必要があって、世帯を主体とする近世日本経済史の研究書を読む。文献は、友部謙一『前工業化期日本の農家経済―主体均衡と市場経済』(東京:有斐閣、2007)

16世紀から17世紀にかけての「小農自立」を新しい視角で大づかみにした研究で、国際的に使われている社会科学の概念装置を使って分析されていることもあって、とてもわかいやすい。中世的な大土地経営の中に取り込まれた「下人」たちが、譜代の下人になり、奉公人を経て、結婚・世帯形成をしてついに別の家として独立するという「家」形成があった。その後、家産と相続人を確保しながら、直系家族という家システムが作られていった。先進地域であった畿内でいうと、屋敷を持たないで耕作している農民が17世紀初頭には60%もいたのに、数十年でそれが30%程度になっていく。

この過程に、「流動民」というアクターをかませて理解している。近世農村の定着率は高かったが、中世には意外に多くの流動民が、「身分が明らかでない」などの形で記録されていた。この割合は数パーセントにものぼったという。これらの流浪民は、人身売買、犯罪者、武士からの下降者とともに、大庄屋の下人となった。それから、数ヶ月の試験期間で見所がありそうだと思われると、庄屋のもとで労働を始める。この間に、怠け者や心得が悪いものは出て行く。さらに一生懸命働いているものを子分にして、その中から、家を継がせたり妻子を取らせて、自分の世帯を営ませるものがいれば、土地や労働の道具などを貸して半独立させる。このように十年以上から数十年の過程を経て、乞食が独立した世帯を営む農民に上昇していたという。