軍隊の精神病の詐病

必要があって、軍隊の精神病の詐病についての早い時期の論文を読む。文献は、円山廣俊「兵役忌避詐病行為被告人トシテ監置セラレタル早発性痴呆患者ノ鑑定書例」『軍医団雑誌』No.97(1920), 763-777.

○山○蔵(本文中でも伏字が使われている)という二等兵が、兵役を逃れる目的で精神病を装ったという罪で軍法会議にかけられ、著者が精神鑑定をすることになった。被告は急性気管支炎で衛戌病院に入院して回復するが、その後、最初は頭痛を訴えて退院を拒み、それから精神の異常ある挙動をする。自殺企図、妄想(白衣の死人が窓際に立っている)、糞便や性器の玩弄などもある。しかし、その約一ヶ月後に、精神病を装っているとして軍法会議に訴えられた。

さすが軍隊だけあって調べが細かく、生活史や入営以後の様子なども記述が細かい。父は被告が小さいときに死亡。祖父は裕福だが貪欲で徳義心に欠け、被告の母親をいびりだすようにして奉公に出し、母はそれがもとで死んだ。被告は愛情がない叔母に育てられ、叔母に暴行したこともあった。長するに乱費放蕩し酒食に浸る生活をした。入営後も劣等で生活上・勤務上の問題は多く、さまざまな奇行をしていた。

このような調査から、円山は、人が見ているところでだけ狂人めいた振る舞いに及んでいる形跡はなく、また、その行動は合計すると半年に及ぶことから、被告は真正の早発性痴呆であると結論している。これは回復の見込みがなく、症状が沈静しても忽然として衝動的行為に出て躁擾することがある。妄想は実は残存しており、病的な感動によって是非を弁別できなくなるので、服務には耐えられないとしている。