感染症とセキュリティ

必要があって、ポリティカルサイエンスにおける感染症とセキュリティの議論を読む。文献は、Price-Smith, Andrew T., Contagion and Chaos: Disease, Ecology and National Security in the Era of Globalization (Cambridge, Mass.: The MIT Press, 2009).

政治科学と訳すのかな、アメリカのポリティカルサイエンティストの仕事にときどき出くわすけれども、いつもどこを理解すればいいのか分からなくて不思議に思っているうちに読み終わってしまう。最初に理論が書いてあって、1919年のインフルエンザにはじまり、HIV, BSE, SARS, 戦争などのケーススタディが続く。これまで自然現象を取り込んでこなかったポリサイでセキュリティの問題として感染症を議論することが目標であるという。感染症が独立変数、社会が媒介変数と考えて、それが国家とその行為や状態に影響を与えるパターンを抽出する。仮説は5つある。1) 流行病はストレッサーになって国家の繁栄・正当性・凝集・安全に負の影響を与える。2) 流行病は国家間の経済的・政治的な不調和を激しくさせる。3) 病原体のすべてが国家のセキュリティに脅威を与えるわけではない。4) 戦争は戦争疫病を発生させる。5) 「ヘルス・セキュリティ」は共和国論の政治的な伝統の流れにのっている。

5) を除いて、どのポイントも、「・・・それで?」と聞きたくなってしまう議論である。正直、ポリサイの人たちが言っていることは字面しか分からないです。きっと、もともと頭がいい人たちが作り出した学問に違いないから、分からないのは私が理解する「こつ」をつかんでいないからだろう。医学史は思想史・社会史・文化史・環境史といった色々な手法が使われるけれども、それぞれを理解する「こつ」のようなものがあって、これを飲み込むのにしばらく時間がかかる。私も、今よりも若いころは、自分がその手法の「こつ」を飲み込んでいないときに、その手法を使って書かれた論文は馬鹿が書いたくだらない論文だと思ってしまう傲慢な態度をとっていた。この手のポリサイの「こつ」は、何を読むと分かるようになるのだろうか? どなたか、名著を推薦していただけませんか。