『村の暮らし』

必要があって、戦前から戦後をいきた農民が書いた自伝的回顧録のようなものを読む。文献は楠本藤吉『村の暮らし』(東京:御茶の水書房、1977)

20歳になると徴兵検査で、これは数年前から待った日である。そこで「男の価値」が決定つけられる日である。幼いときから「大きくなったら何になる」「鎮台さん」「何が欲しい」「鉄砲と刀」という問答で育った彼らにとって、徴兵検査で甲種合格することはなによりも誇らしいことであった。一人ひとりの成績を村長が見守り、36人の受験生から16人の甲種合格を出し、「伝染性患者」が一人もいなかったことを喜んでいた。体力検査などをして、四つんばいにされ、肛門をみてから男のシンボルを「いや」というほどしぼられる。淋病や梅毒の検査のためである。これで保菌者がでると恥さらしという叱りをうけ、村長がその責任を負っていた。「都会帰りの色白」に保菌者が多かったという。

検査がすんで出てくる甲種合格の顔は輝き、控え室で男の本望を誇らしく話している。いっぽう、丙種で隅に沈んでいるものもいる。これほど男の顔を明確に選別された日は誰でも生涯ないはずだ。

終わりに試験管は受験生をあつめ、諸君は本日から酒もタバコも飲んでよい。一人前の男子だ。と命令口調でいう。入営するものの家には大きな竹のさおが立てられ、祝いの旗が立てられる。入営まで半年あるので、夜は村の知人の家を訪問して、もう飲んでもいい酒を飲んだりすると、村の娘たちのあこがれのまなざしがあり、「自分でも男前がよくなったようである」とあう。 90-94

・・・この話を聞くと、徴兵検査まで性病罹患率が低く抑えられると同時に、徴兵検査が済むと一人前の男になった興奮で浮かれて性病に罹患するというシナリオが目に見えるようである。