夢を見る装置


必要があって、病院の歴史を古代から現代まで概観した通史を読む。文献は、Risse, Guenter, Mending Bodies, Saving Souls: A History of Hospitals (Oxford: Oxford University Press, 1999)

18世紀のエディンバラの病院/大学の医療・医学教育・研究を研究してきた医学史家が、西洋の病院の歴史を通史で描いた700ページの大作である。授業のときに、病院の話をしなければならないときには、基本的なことであれば、この書物で対処できる。ギリシアのアスクレピウスの神殿やローマの負傷・退役軍人のための病院にはじまり、現代のハイテク病院にいたるまで、それぞれの時代の病院の機能とありさまがよくわかるようにヴィヴィッドに細部を描いて授業でそのまま使える小節をつなぎ合わせて、全体像もよくわかるようにした傑作である。

画像は、紀元1世紀のコスのアスクレピオンの神殿を復元したもの。体を清めてこの中に入って祈りと供物をささげた後で、寝所に入って夢を見ると、その夢の中で医神アスクレピオスから治療法が告げられる。つまり、この壮大な神殿は、夢を見るための巨大な装置なのである。その夢の中で告げられるのは、「からしと塩のスクラブで体をこすれ」「できるだけはだしで歩き、川で沐浴せよ」といった、平凡な治療法にすぎない。その辺の医者に聞いても教えてくれる内容であって、この巨大な夢を見る装置は一見すると無駄に見えるが、「そこがキモ」である。