医学教育の国際比較史

必要があって、医学教育の国際比較史の傑作を読む。文献は、Bonner, Thomas Neville, Becoming a Physician: Medical Education in Britain, France, Germany, and the United States, 1750-1945 (Baltimore: The Johns Hopkins Univeristy, 1995).

時代としては18世紀から20世紀半ばまで、地域としてはドイツ、フランス、イギリス、アメリカの四カ国の医学教育の歴史を扱っている。国別に分けて扱うのではなくて、例えば病院教育、基礎科学の重視、大学の中への取り込みなど、歴史上あらわれた主題に関して、それぞれの国を比較しながら論じる構成になっているので、それぞれの問題に対する各国の対応の違いとその理由がよく分かる構成になっている。医学教育について、必ず持っておくべき書物である。というか、私はこの本しか持っていない(笑)

基本は、国家による統一された医業資格をもち、国家が医学教育に与えた影響が大きかったドイツ・フランスと、医業資格がさまざまなチャンネルを通して認可され、医学教育が私的な医学校にまかされていた英米の対比が大きな軸になっている。そのため、ドイツ・フランスがアイデアにおいても医学教育の水準についても先行し、英米の医者たちがそれを追いかけるという構図になっていた。1894年にフランス人は、アメリカで病気になってアメリカ人の医師にかかったら、神に加護を祈るしかないといっているように、いまから100年前のアメリカの医学教育は、そのほとんどが大学ではない私立の医学校にまかされ、これらの医学校は簡単に申請できてその申請は許可されていた、はっきりいって質が低いものであった。