江戸時代の薬

必要があって、近世の薬、特に輸入薬についての研究書を読む。文献は、山脇悌二郎『近世日本の医薬文化-ミイラ・アヘン・コーヒー』(東京:平凡社、1995)。

平凡社の編集が何を思ったか「ミイラ・アヘン・コーヒー」といった妙な副題をつけてしまったせいで、妙な印象を持っている人もいるかもしれないが、この書物は経済史の書物である。近世の日本は、中国・東南アジア・ヨーロッパに由来する薬材が、長崎から大阪の道修町を経由して全国にもたらされる、発達した薬のグローバル化に巻き込まれており、18世紀半ばから、オランダ船によって西洋由来の薬がもたらされたことは、医薬品の市場と医療の市場に大きな影響を与え、蘭学勃興の重要な社会経済的な背景を与えた。経済史の訓練を受けた学者にとっては、この影響をきちんと分析することはそれほど難しいことではないと思う。この書物は、その薬物取引のグローバル化と、日本におけるその影響の議論をするはずだったのだろうが、その前段階の作業である、それぞれの薬物の品目の意味をきちんと同定するというところで止まっており、経済的な分析はときどき素描程度に出てくるものになっている。しかし、江戸時代の薬材についての貴重な情報に満ちていて、この本は座右の一冊になっている。