カネッティ『眩暈』

必要があって、エリアス・カネッティ『眩暈』を読む。法政大学出版局から、池内紀の翻訳が出ている。

色々な要素がある作品である。知識人の社会における位置、群衆、ミソジニー、障害者、(反)ユダヤ主義があって、それにナチスによって出版禁止にされたというおまけがついている。こういったことも大切で面白いけれども、私は一番素直に(というかナイーヴに)、書籍狂の中国学者と、無知な女と、ユダヤ人のせむしと、アパートの門番が主たる登場人物で、この者たちはみな妄想の中に生きている狂人で、小説全体が、これらの狂人同士が自分の妄想の中に他の狂人と現実の世界を引き込もうとして綱引きをしているような部分に着目しながら読んだ。迫力がある傑作だった。この本は文庫になっていなくて高価だけれども、これからの研究にインスピレーションを与える本になるから、買って手元に置こう。