モレルの変質理論への注釈

必要があって、モレルの変質理論への注釈を読む。これは、Edwin Wing というイギリスの精神科医が、モレルの Degeneration を分析して論じた文章が、Medical Circular というイギリスの雑誌に1857年に連載されたという不思議な経緯のテキストである。この Wing という医者については、イギリスの精神病院の院長をしていたということ以外に、私は何も情報を持っていない。

「分析」analysis というのは、ある種のくだけた注釈のようなもので、モレルの書物からウィングが興味を持った部分を翻訳して、それに説明をつけるという形になっている。主として話題に上がっているのは、人種問題と degeneration 理論の関係、もう一つはアルコールを中心とした毒物(笑)が degeneration とどう関係があるかという主題である。人種問題と変質についての議論は本当に読み応えがあった。人間は世界の各地の環境に合わせて変化している。エスキモーとホッテントットはまったく違う環境に住んでいるし、当時は世界中から色々な民族についての情報が集まっているころだった。このような環境に合わせて人間の身体も精神も変わる。これと、モレルが「変質」、すなわち原型からの変異と呼ぶものは、どこが違うのだろうか?モレルは区別をするが、結局、その両者を区分する境界線は、簡単に引けるものではないという注意もしている。

移住による気候順化と変質の区別と重なりあいというのは、変質概念が導入させられたときから、誰もが考えていたことだった。実は、しばらく悩んでいたニーチェ問題に、これで少し光が差し込んだような気分になった。あの論文は、これ以上手元においても良くならない。いい加減で書いてしまおう。