ボディ・エコノミック

必要があって、19世紀の政治経済学の文化分析研究を読む。文献は、Gallagher, Catherine, The Body Economic: Life, Death, and Sensation in Political Economy and the Victorian Novel (Princeton: Princeton University Press, 2006).著者は基本は英文学者だが、カルスタ系の研究の実力者で、愛読している論文がいくつもある。Nobody’s Stories もとても良い本で、インスピレーションをもらっている。

表面上の主張としては、19世紀のイギリスにおいてしばしば対立させられるロマン主義と政治経済学は、実は共有する部分が多かったという主張になるが、この著者が書くものには、そういう主張そのものよりも、とても面白い概念が使われているから、それに注意して読んだ。この本では、生命・生殖・死のメカニズムを論じる bioeconomics と、経済的な判断を快と苦痛に対する生体の反応に基いてとらえる somaeconomics という区別をたてていた。ちょっと、これが、具体的にどのように使えるのか分からないが、バイオパワーに随伴したもう一つの権力として、快と苦痛の領域に介入したものがあるということは、きっと重要だろう。もうひとつが、伝統的な、「健康な個人からなる社会は健康である」という考えにマルサスが撃ち込んだ楔について。それまでの考えが、個人の健康と社会の健康のホモロジーに基いているとしたら、マルサスは、健康で性欲があり生殖力に満ちた個人からなる社会は、すぐに貧困と不健康に陥ることを示して、社会の健康を異なる平面で測定・定義しなければならないことを論じたということから出発する問題であった。

この対概念はとても面白い。こんなに豊かな概念を、19世紀の文学作品を読むことだけに使ってはもったいない(笑)