『中世の患者』

必要があって、中世の医療についての概説書を参照する。文献は、ハインリッヒ・シッパーゲス『中世の患者』濱中淑彦監訳(京都:人文書院、1993)

解説によると、著者はアラビア医学とヒルデガルト・フォン・ビンゲンについての業績がある碩学で、たしかにヨーロッパを扱った本でありながら随処にはさまれるアラビア医学についての解説は非常に的確であり、ヒルデカルトの精神病の治療についての記述は読みごたえがある。同じ著者の『中世の医学』も同じ人文書院から翻訳されているが、『中世の医学』のほうは医学の思想的な背景が解説されていたのに対し、『中世の患者』の方は、医療にまつわる人間学的な問題が解説されている。多分に倫理的な問題設定が多く、中世の医療思想に、宗教に裏打ちされた倫理的な英知を求めるかのようなトーンの記述が多い。私にはなじみが少ないヒストリオグラフィだけれども、そこは碩学の著作だから、そのゲームの規則さえ受け入れてしまえば、あとは楽しく読んでためになる。もちろん、事実を記述した部分と、当時の倫理的・宗教的な脈絡を説明した部分、そして著者の倫理的な価値判断を記述した部分とが、かなり渾然一体となっているので、参照したり引用したりするときには気をつけなければならないけれども。