養生訓と老齢者介護の食事

モル先生のセミナーの準備のために、貝原益軒『養生訓』と香月牛山『老人必要養草』(正徳6年、日本衛生文庫に再録)を読む。世帯のエトスに基いた老人介護のヴィジョンが語られている。

年をとったら若い時とは違った養生法が必要だというのは中国の古典以来の発想であり、江戸時代の養生書は、老齢を意識した特別な部分を含んでいた。それと同時に、養生書は儒教的な道徳の影響もあるから、親を大切にせよというメッセージも込められていた。貝原益軒の『養生訓』の巻八は「養老」と題されていて、そこには、自分の親を養生する場合と、自分が老いた時の養生の心得の二種類が描かれている。これとほぼ同時期の香月は、老人の養生についてのモノグラフであり、日本衛生文庫版だと100ページにわたる詳細な記述になっている。これらは、近世の世帯がその中に抱え込んだ多くの医療・公衆衛生の機能に、老人の介護も含まれていたことを示している。食べものについての記述は、牛山が詳細に述べていて、その中で土着の疑似進化論(笑)を展開し、昔、人々が肉類を食べていたときは、人は牙と角をもっていた(つまり鬼だった)が、穀類を食べるようになって牙と角が引っ込んで現生人類になったという面白い説を述べている。 時間ができたら、鬼の研究を見て、この説がどう捉えられているか調べよう。