精神医学の悪用―黒人奴隷の「逃亡狂」

必要があって、精神医学の悪用として最も悪名高い、アメリカ南部の医者が黒人奴隷が自由を求めて逃亡するのを「逃亡狂」(drapetomania) として精神病とした記述が現れた文章を全文読む。文献は、Cartwright, Samuel A., “Report on the Diseases and Physical Peculiarities of the Negro Race”, New Orleans Medical and Surgical Journal, May, 1851, 691-715. もとはといえば、ルイジアナ医学協会が調査のために任命した4人の医者からなる委員会の委員長であったカートライトによる報告である。これは、この雑誌がまるごと Googlebooks に掲載されていて、Wiki のカートライトの項目からリンクが張られています。


全体の基調は、奴隷解放をとなえる国の内外の勢力(自由州やイギリスなど)に抵抗するための医学的な根拠を示すのが目的である。そのため、黒人の身体と精神は奴隷状態にふさわしくできており、奴隷として適当に扱われないと病気になることを示し、その病気の病理学や治療法が示唆される。扱われている病気は、肺炎、るいれき、フランベシアなど、結核にくわえ、二つの新しい病名を提示していて、そのひとつが逃亡狂 drapetomania, もうひとつが、黒人性感覚欠如症 (dysaesthesia aethiopis)である。

黒人は皮膚の色が違うだけでなく、身体の全てが違う。血の色、体液の色、肉の色、頭のつきかた、骨格などなど。もっとも重要な違いは、彼らの血液はうまく酸素を取り込めないということである。血液の違いは、彼らの脳と神経の配分の違いとともに、彼らの低い精神状態のもとになっている。これほど違う彼らは、はたして白人と同じ人種なのだろうか?と問わざるをえない。聖書によると、Canaan の黒人たちは、隷従するように定められているが、もともと Canaan というのは、膝を屈して隷従するという意味であり、隷従が黒人にはふさわしい。彼らの骨格も膝を屈するのに都合がよくできている。

だから彼らは奴隷らしく扱われないと病気になる。奴隷らしく扱うというのは、むやみに冷酷にするということでなく、劣等な子供を扱うように、彼らに主人への愛と恐れを教え込むことである。三権分立でなく絶対的な権力を持つ主人に愛と恐れを抱くことこそ黒人の本性にふさわしい。このような規律をもって奴隷を扱わないと、奴隷たちは病気になる。不満から彼らは結核になるし、逃亡狂や感覚欠如症のような病気にもなるのである。(ちなみに、詳しく書かないが、感覚欠如症というのは、意識がない状態で手当たり次第何かを壊したりする面白い病気である。)

彼らは身体のあらゆる部分を同時に動かして踊ることができて、彼らは音楽を官能で捉えるという部分もあった。