パワーポイントの認識形式

学生に勧められた著者の他の著作を読む。文献は、Tufte, Edward R., The Cognitive Style of PowerPoint (Cheshire, Connecticut: Graphics Press, 2003).

パワーポイントというのは、GISと並んで、私が手を焼いているIT技術である。私がGISで作ったGISがみっともないのは、まだソフトに慣れていないからだという言い訳ができるけれども、PPTについてはその言い訳ができない。この本は、PPTのプレゼンガイドではなくて、PPTが持っている原理的な特徴まで掘り下げて、その限界と欠点を論じていて、とても参考になった。

PPTは、高水準の分析をするべきところを、安っぽい図表のジャンクにしてしまい、証拠と思考が切りつめられてしまう。その認識論的な形態は、スライドの時系列に沿って一つの流れしか許さない。スライドの「レゾリューション」が」低いから、一枚のスライドに情報を多く入れることができず、情報の断片が次々と流れ去っていくという議論の形態になってしまう。特に箇条書きのスタイルは、論理的な階層の構造をあいまいにし、我々を愚かにする。それを補うかのように、くだらない装飾が繁茂する。これは、ソフトウェアの製作者が権威を持って上から質が低い議論を押し付ける構造になっている。

大英博物館が、その所蔵品を100点えらんで「世界の歴史」を語るという一大プロジェクトを行うときに、媒体として「ラジオ」を選び、私はこれを熱狂的に聞いていた。素晴らしい番組だった。この番組の成功の理由は、具体的なものの紹介だからといって安直に映像や画像を見せるのではなく、言葉で説明することを敢えて選んだことだという意見を聞いて、なるほどと思った。たしかに、授業でも学会でも、画像を見せるときには、私のもともと高くはない知性が、さらに落ちている。この著者はPPTに反対しているけれども、それなら何を使うのかという問題があるから、私は使い続けると思う。けれども、PPTでバカにならないようにするためには、どこに気をつければいいのか教えてくれた書物だった。