三つのインフルエンザ流行

必要があって、三つのインフルエンザ流行における報道のありかたの違いを分析した書物を読む。文献は、Blakely, Debra E., Mass Mediated Disease: a Case Study Analysis of Three Flu Pandemics and Public Health Policy (Lanham, MD.: Lexington Books, 2006).

まず、インフルエンザの世界的な流行を三つ選ぶ。1) 1918-19年(スペインかぜ)、2) 1957年(アジアかぜ)、3) 1968年(香港かぜ)である。そして、それぞれの流行に関して、アメリカでもっとも重要な新聞である ニューヨーク・タイムズの記事を組織的に集め、補助データとして他の媒体の記事も見る。そして、この三つのクラスターの報道について分析して、その「ナラティヴの主題」と「病気のアービター」を識別するという流れの研究である。ナラティヴの主題は、ひとつの流行の中でも変化していく。たとえば、スペインかぜでいうと、最初は「ドイツ軍が困っている病気」だったのが、アメリカ軍やアメリカにも被害が出るようになって主題が「強い不安」に変化した。アジアかぜでいうと、最初はワクチンも抗生物質もあるという科学的なオプティミズムだったのが、それが不足していることが分かると、医療行政への批判に変わった。香港かぜでは、「自然を責める」というか、その被害を人間のコントロールを超えた自然の力に帰すことが主題となった。

一方、それぞれの流行の報道について「病気のアービター」も変化した。この「病気のアービター」というのは、ちょっと面白い概念で、枢要な情報を流す人や機関のことである。最初は公衆衛生などにたずさわっている特定の個人であるが、そのうち、CDCやWHOなど「機関」のスポークスマンが全面に出てくるようになる。

冒頭で、この三つの流行の報道を、こういう仕方で調べて何を明らかにするのかということの説明がしてあって、その部分は私が読んでもピンとこなかったけれども、メディア論や社会学の人たちが読んだらよく分かるのかもしれない。それは別にして、報道記事それ自体の分析の仕方を学ぶことができたからよかった。

これからどう研究を発展させるかの示唆の中に、特にアジア風邪について日本のインフルエンザ報道と対比すればいいとあった。