精神医学と国際組織

必要があって、戦後のフランスの精神医療の展開とWHOの委員会の関係を論じた論文を読む。Henckes, Nicolas, “Narratives of Change and Reform Processes: Global and Local Transactions in French Psychiatric Hospital Reform after the Second World War”, Social Science and Medicine, 68(2009), 511-518. 

20世紀の医療においては、国際的なアクターが重要になる。国際衛生会議、国際連盟衛生局、ロックフェラー、WHOなどである。これらは世界の医療を進展させ標準化させてグローバルな医療の平面を作りだした。しかしその一方で、ローカルな水準においても、グローバルな型のなかから選んで、特定の文脈において自身の実践をつくるために利用したという展開もあった。つまり、マスターナラティヴによって意味を与えられた要素を、特定の状況で展開させて、ローカルな進展を持たせたのである。こういうモデルの研究が意外にありそうでなかった。

もう一つが、精神医療の体制のデザインは、医学そのものというよりも社会科学の影響を受けたということである。特に、WHOが1950年代に出した精神科医療委員会は、歴史の影響を強く受けていた。それは、三層にわたったナラティヴを展開していて、一つは宗教から医学へ、もう一つが国家から医者へ、そして精神病院から地域医療へというものであった。これらを歴史的な発展としてとらえ、それぞれの国の発達段階ごとに展開することを許したのが、戦後のWHOのヴィジョンであった。