個人の疾患と人口の疾患

必要があって、疫学の古典の論文を読む。文献は、Rose, Geoffrey, “Sick Individuals and Sick Populations”, International Journal of Epidemiology, 30(2001), 427-432.

疫学的な研究のうち、医者の伝統的な役割によりなじむのは、ある個人の症例について、「この患者はなぜこの病気になったのだろうか」と問うものである。このモデルでは、その個人にタバコをやめなさいとか、食生活を変えなさいとか、そういう方法で予防をすることができる。特にすでに具合が悪いと感じている個人にとっては、この予防方法へのモチヴェーションは高くなる。しかし、より問題になるのは、ある人口全体を覆っているようなものが原因になる場合である。疫学的な研究をするには、その研究対象が異なったものを含んでいることが絶対に必要である。全ての人々が同じ本数のタバコを吸っている集団を疫学者が研究したら、どのような研究をしても、肺がんの発病の違いを決めるのは遺伝子であるという結論が出るだろう。同じように、イギリス全体で水の種類(軟水か硬水か)と心臓循環器系の死亡率の相関を調べると、軟水の地方では死亡率が高くなるという結果が出るけれども、全ての人が軟水を飲んでいるスコットランドで調べても、そのような結果は出てこない。異なった人口集団の間で較べてはじめて見えてくるリスクファクターがある。これを予防するためには、人口全体にかぶさっていたものを取り除いたり変えたりするアプローチが必要であり、個人にとってのベネフィットは低くなりがちで、モチヴェーションが低くなる。