澤田順次郎『花柳病院』(1913)

必要があって、澤田順次郎『花柳病院』(1913)を読む。『コレクション・モダン都市文化』のシリーズの『病院と病気』の巻に、編者の福田眞人が『脳病院風景』と『神山癩病院概況』とともに入れたもの。これは花柳「病院」と題されているが、副題に「独診自療」と銘打たれていることからも察せられるように、セルフ・ヘルプものである。一問一答式で、花柳病の分類、原因、症状、感染経路、そしてもちろん治療の仕方を詳述している。不必要な情欲に苦しまなくていいような養生法も解説されている。全体として、花柳病の自宅治療と予防のための詳細なガイドである。たとえば、サルバルサンの箇所はこのようになっている。

問:サルバルサンとはどんなものですか
答:サルバルサンとはドイツのエーリッヒ氏と我が国の秦氏の発見した物質で、矢張り砒素剤です。(中略)これを使用するには医師の手を要し、しかも用法を誤れば危険に陥る恐れがありますので、素人療法をしてはいけません。

これを『花柳病院』と名付けた理由は、よくわからない。病院のように優れた療法を提供するということだろうか。

この本の養生部門に、性欲を亢進する食べもの・飲み物と、そうでないもの・鎮静する食べもの・飲み物が丁寧に説明されている。この手のものは、不思議な考えが強烈な言葉で表現されていて、驚くことが多い。(メロンを食べると死ぬとか、そういうやつである。)この本では、やはりこれだと思う。

問:燐素の色情に及ぼす影響をお尋ねします。
答:これを用いるときは色情亢進して発狂することがあります。

で、この燐素を多く含む食べものが魚類だから、魚類は色情を興奮させることはなはだしいという。魚類はあぶない食べものである。それから、もう一つ危ないのがコーヒー。「コーヒーは生殖器と大なる関係ありて、多量にこれを用いるときは、収斂剤を用いなければ制止せられぬことがあります。」

で、これはどこから引っ張って来たのだろうと思って、ちょっとBeard を調べたら、全然違った。

・・というわけで、魚とコーヒーというのは、色情狂必須の組み合わせだそうですよ。