人種論


必要があって、人種論の論文集を読む。文献は、以下の書物に掲載された論文。竹沢泰子『人種の表象と社会的リアリティ』(東京:岩波書店、2009)。藤原辰史「虚ろな表情の<北方人>―<血と土>の画家たちによせて」112-135. 李昇カ(カは火へんに華)「<顔が変る>―朝鮮植民地支配と民族識別」136-159. 坂野徹「混血と適応能力―日本における人種研究 1930-1970年代」188-215.

ナチスは「血と土」という言葉に象徴された芸術を理想的なものとした。生命力あふれる身体を持つドイツ人が、美しいドイツの農村の自然風景の中で描かれる芸術である。その対極にあるのが、狂気・退廃・都市の病理を代表する「退廃芸術」であり、1937年の退廃芸術展は、それに属するとされた芸術家の作品を集めたものであった。

こう書くと、ナチスが愛好して庇護した芸術が、ある<まとまり>があるスタイルを持ったものであるかのように思えるが、実は、この<血と土>の芸術に属するとされるナチスお気に入りの画家たちの作品には、血が通った人間、大地に根を張った人間は描かれていない。あるいは農婦を描く場合でも、切り離された性的な欲望の対象が描かれているかのようである。

李の論文は、日本人による朝鮮支配が、「同化」を掲げる一方で人種主義的な秩序を持つ複雑・あいまいなものであったことを指摘し、それに対して、色々な立場をとる朝鮮人たちが現れてきた、そのヴァリエーションと変化を描いたものである。特に、日中戦争がはじまると、かつての劣等の象徴として朝鮮人らしさという言説にかわって、むしろ特有の民族性を捨てて完全に同化することが可能である、そして、その過程で朝鮮人の顔が変わって行くのだと主張する派も現れた。

画像は、「血と土」の芸術が描く、硬直した農夫の家族。