中西啓『長崎のオランダ医たち』

必要があって、長崎の「オランダ医」たちを扱った新書をチェックする。文献は、中西啓『長崎のオランダ医たち』(東京:岩波書店、1975)長崎からの西洋医学の導入というのは蘭学史・洋学史の古典的なテーマで、本来、もっといい書物を手元に置いておくべき。

長崎を介して日本に西洋医学を導入した医者を合計7人選んで、一人一章をわりあててそれぞれの事績をまとめた書物。時代的には1500年から1870年までをカバーしている。選ばれた人物は、ポルトガル・イエズス会との交流の時代からアルメイダ、フェレイラ(沢野忠安)の二人、オランダによる通商独占の時代から、ケンペル、ツュンベリー、シーボルトの三人、開国後からポンペとボードウィンの二人である。それぞれ、日本における活動を詳細に記している。著者は医者だから、医療のテクニカルな部分についての説明が詳しい。これらの詳しい説明を好事家的に読む本である。ツュンベリーの項目で、長崎通詞の翻訳活動にも触れていた。

扱われている医者の名前を見てもわかるように、題名の「オランダ医」というのは難しいネーミングである。ポルトガル時代はもちろんのこと、オランダが通商を独占していた時代から選ばれていた三人は、ケンペルとシーボルトはドイツ人でツュンベリーはスウェーデン人だから、オランダ人は一人もいない。