呉秀三とロンブローゾ

呉秀三「監獄の精神病」『監獄協会雑誌』18(1905), no.7, 1-42.

呉秀三が、ロンブローゾの生来犯罪者の理論について面白いことを言っている。犯罪者は、身体に一定の変質徴候がある。しかし、その徴候は精神病者にもやはりある。だから、犯罪者に特有の徴候というわけではないし、この徴候があるから犯罪者ということにはならない。罪人人相学というものは不可能である。しかし、徴候が犯罪者や精神病患者に多いのは事実であり、これを指摘したロンブローソの考えは面白い。彼の言うことをすべて真に受ける学者は少ないが、反対している学者ですら、結局はロンブローソの言うことに賛成しているような仕掛けになっている。犯罪者を広い意味で考えると、それは精神病院に入るようなものと、監獄に入るものと二分することができる。

もう一つが統計を用いた議論である。これは、統計の結果から何かを言うというのでなく、統計の数字の逆用である。ドイツや西洋の監獄統計では、100人中2人から10人が精神病患者であるが、日本では10万人中4人にすぎない。(この統計は、西洋のそれは人数を、日本のそれは、さらに日数で割っているので、果たして呉が基本的な過ちを犯しているのかどうか、私は不審に思っている。)いくら日本の社会が精神病の傾向が少ないとはいえ、この差は、ありえない。つまり、日本の社会に精神医学の目が行き届いていないのである。

もう一つ、詐病・佯狂についての議論も面白かった。精神病の詐病は著しく難しいだけでなく、それは本当の精神病であることが多いという議論である。