統合失調症の遡及的研究

Fraguas, David, “Problems with Retrospective Studies of the Presence of Schizophrenia”, History of Psychiatry, 20(2009), 61-71.
人間のさまざまな行動を精神医学の診断名で記述することは、19世紀以来広まったものの見方であり、近現代の重要な特徴である。これは、分類者自身が生きている社会だけでなく、過去と未開社会にもあてはめられ、精神医学を歴史と人類学とに結合した。前者においてはシャルコーの悪魔憑き研究が象徴的な意味を持っているが、後者においては何だろう。

精神医学のある診断を過去に適用することには、概念上の根本的な困難がつきまとう。べリオスはこれを、「言葉と概念と行動の一致」という仕掛けで説明しようとした。分裂病なり統合失調症なりと呼ばれる病気も、それが過去に存在していたのか、存在していたとしたらいつから存在したのか、長い歴史上で増減はあったのかという問題についても、さまざまな考えがあり、これは統合失調症という疾病の理解が現在でもあいまいであることと深い関係がある。それよりも根本的なのは、かりにそれが厳密であったとしても、もともと分裂病というのは近現代の社会でつくられた概念であり、「そこにもともとあった」ものではない。分裂病という疾病概念が存在するのは、歴史と社会にねざしたうえのことであり、それは近現代の約束事と考えたほうがよい。

進行麻痺について、遡及的な研究をして、その概念が日本に輸入される前の状況を調べてみようと思っていて、この議論はとても参考になった。