奄美諸島の神経疾患調査

Kondo, Kiyotaro, “Inherited Neurological Diseases in Island Isolates in Southern Japan”, in D.F. Roberts, N. Fujiki and T. Torizuoka eds., Isolation, migration, and health : 33rd symposium volume of the Society for the Study of Human Biology (Cambridge: Cambridge University Press, 1992), 130-142.

奄美諸島の住民は長いこと孤立していた生活を送っており、封建時代においては身分制が敷かれていたので、島や村の中で親族同士で結婚する血族結婚が当たり前であった。特にエリート層は数も少なかく、血族結婚は濃厚であった。血族結婚の習慣は20世紀の後半になっても継続し、1962年に行われた夫婦の調査では、<いとこ>、<またいとこ>、他の親類との結婚は、40%にものぼっていた。(ちなみに、他の年齢階層においては、いとこ・またいとことの結婚は20%以上にのぼるが、29歳以下においては8%にしか達していないのは、近親結婚の害悪を説明するキャンペーンが始まったのであろうか。)

その島において、1965年に遺伝性の神経疾患が調査された。手法は、まず地域の記録や地元の医師から障害者・障害児を発見する。彼らを個別訪問し、できるだけ直接診断する。そこで、似たような病気に罹っているものを知らないかと質問する。さらに、奄美大島の56の集落からランダムに選んだ集落を全戸にわたって戸別訪問し、全員を検査する。その結果、59件の神経運動疾患が発見され、そのうち徳之島と沖永良部島で発見された31件は、それまで知られていた疾患とは異なるものであり、「琉球脊髄性筋萎縮症」と命名された。(この病気の名称は、悪意はないのかもしれないが、非常に差別的であり、現在では使われていないらしい。)

これらの31件の患者が集中的に研究され、戸籍や家系図を用いてその遺伝と起源が明らかにされた。その結果、この病気は地理的に集中しており、また、400年以上前に琉球から派遣された支配者である「親役」からの家系において多くの患者が出ていることが明らかになった。薩摩藩に征服された後も、この支配者の階層はそのまま利用されたので、彼らは濃厚な血族結婚をすることになった。このような過去の慣習が、現在の脊髄性筋萎縮症の分布にも大きな影響を持っている。

この論文は1992年に出版されたが、実際のところ、かなりの部分は、1960年代の調査と研究のまとめのようである。この1960年代の論文を調べないと。