ベリーニ『サン・ロレンツォ橋の聖十字架の奇跡』


今日は、ちょっと妙なことを書かせてもらいます。

ジェンティーレ・ベリーニによる『サン・ロレンツォ橋の聖十字架の奇跡』(1500)という有名な絵画がある。ヴェニスを描いた絵画で、祭礼の途中、運河に取り落とされた聖十字架を、聖ヨハネ同信会の会長が運河に飛び込んで拾い上げた場面が描かれている。

この絵画を、先月号の『芸術新潮』で観た時に、とても奇妙な感じをもった。これまで、どの絵を見た時にも感じたことがない印象で、ある種の精神病理的な奇妙さすらある感覚である。ありていにいうと、「自分は、この絵の中に一度存在したことがある」という感覚である。記憶とすら言ってもいい。サン・ロレンツォ橋という地点は記憶にないが、ヴェニスは何回も行っているから、その感覚かとも思うけれども、少し違う。この絵が描く場所ではなく、この絵が描く情景の中に存在したのである。虫眼鏡で、描かれた人物の顔を一人ずつ見ていったけれども、自分だと思う人物はいなかったし、そのことは大きな問題ではない。その記憶は、もしかしたら、一度みた夢を思い出しているのかもしれない。この絵の中に入っていく夢を見たのかもしれない。