エロスと権威の道具としての浣腸







芸術新潮』の春画特集

2012年2月号の『芸術新潮』は春画と世界のエロティック芸術の特集である。「春画ワールドカップ」などというおばかな企画を組んでいるから誤解しがちだけれども、とても読み応えがある特集だった。日本の春画のほかに、中国、インド、トルコ、アンデス、古代ギリシア・ローマ、そしてヨーロッパという6つの区分けで、エロティック・アートを論じている。

田中雅志さんという美術史家が、ヨーロッパ編で、ワトーの素描で浣腸が行われているありさまを描いたものを分析していた。浣腸は当時の上流女性の間で美容法として流行しており、浣腸器は男性器の象徴であったと書いてあった。浣腸と同じく重要な医療の手段であった瀉血についても、サドの作品をはじめとしてエロティックなイメージの一つの素材となっているだけでなく、実際に領地の人々に瀉血をして(あるいは瀉血してもらって)、エロティックな感興にふけっていた貴族がいた(このことについては、小さな文章に書いたことがある)。浣腸について、Wellcome Images で調べてみたら、エロティックなくすぐりを入れた図像がたくさんあった。その中には、医者が美しく若い女性に浣腸をしている絵に、二匹の猿が浣腸遊びをしている図が描かれているなど、日本の春画の技法とも通じるものもあった。しかし、一番面白いのは、女性たちが男たちを圧倒する場面で、女性が巨大な浣腸器をもって男性を脅している図である。これは、ナタリー・デイヴィスが論じた「女性上位」の主題の中で論じられるのが正しいのだろう。浣腸は、女性に対する男性の権威の象徴であって、それが逆転するときには、女性が男性に浣腸をするという想像になっているのだろう。

いくつか図版を添えました。詳細については、Wellcome Images で enema を検索して該当の図版の説明をご覧ください。