精神病患者は死なない

Andrews, Jonathan, “'Of the Termination of Insanity in Death', by James Cowles Prichard (1835)”, History of Psychiatry 23(2012), 129-136.

History of Psychiatry には、「精神医学の古典」というコーナーがあって、重要なテキストなのに、初版の事情で手に入れにくいものを活字に起こしたり、英語ではないものを翻訳したりするコーナーがある。このコーナーがもう89回目を迎えたとのこと。同じような企画が、1970年代から80年代にかけての日本でも行われていた。雑誌『精神医学』の古典紹介のコーナーである。この『古典紹介』で翻訳された精神医学の古典は、『現代精神医学の礎』として、全4巻本にまとめられて、時空出版から出版された。

最新号のHistory of Psychiatry の古典紹介コーナーは、1830年代にイギリスの精神医学に重要な影響を与えたJ.C. Pritchard の著作の一節。精神病と死亡との関係について論じた部分である。

精神病は人を他の病気にかからなくさせるから、精神病患者はむしろ長生きであるという思い込みを、精神医学が持っていた時期があった。いま、ぱっと思いつくかぎりでは、イギリスでは18世紀半ばの William Battie などがそう言っているし、19世紀に入って、精神病院において長期にわたる観察ができるようになってからも、医者たちは精神病患者の長命を主張し続けた。1822年のビセートルには、長寿の患者が数多くいたという。プリチャードも、基本的には同じスタンスで、精神病は生命に危険な病気ではないという。確かに脳が異常だからその機能が乱れて精神が狂うのだが、脳に依存しているほかの機能は正常に機能つづけるのだという。

その中で、注意点という感じで、精神病院においては、脳(中枢神経)の状態に依存する痙攣や卒倒などのほかの病気による疲労・消耗が患者の死亡の一つの原因である、エスキロールもいうように、結核も重要な死因である、ほかには心臓病や胃腸病なども原因であるという。