精神医学の古典論文の翻訳集成

昨日言及した『現代精神医学の礎』は、時空出版から出た4巻本で、現代精神医学の古典的な論文を集めたものである。これらの論文は、もともとは雑誌『精神医学』の「古典紹介」のコーナーで、翻訳と解説をつけて紹介されたものを、主題別に分類しなおして書籍の形にしたものである。「古典紹介」というコーナーは、1974年に開設され、それから98年まで存在したが、実質的には、80年代の中ごろまでが最も充実していた時期であった。(『精神医学』に掲載された論文の一覧表が付されていたので、PDFで添付した。)

「古典紹介」という重要なプロジェクトが書物の形でまとめられたことで、重要な論文がより身近になった。私自身のドイツ語やフランス語は、歴史学者の実用の水準には達していないし、ロシア語やイタリア語は、そもそも読むことができない。「古典紹介」で訳されているかもしれないと思っても、それをチェックする手間が、重要な仕事との距離を遠ざけていた。しかし、この書籍化によって、正直、私も驚くような仕事が多く翻訳されてきたことが分かって、恥ずかしく思っている。一番恥ずかしかったのは、電気痙攣療法を発明したチェルレッティの「電撃」は、80頁もある大きな仕事で、ぱっとみたところでは、水準が高い仕事である。(私は、チェルレッティに対して、漠然と低い評価を持っていたから、いっそうおどろいた。)あるいは、ヒステリーに随伴する「ガンゼル朦朧状態」のガンゼルによる記述が訳されていたり、1895年のシュトリュンベルの外傷性神経症の問題を論じた論文の翻訳など、私が知っていて、入手して読んでいなければならない論文が数多くあった。(目次のPDFを添付した。)

欠点は、価格が「医者価格」になっていることだが、図書館や研究室は、この4巻本を必ず買うべきだし、個人の研究者でも、科研費が余ったときには、とても良い買い物だと思う。