ナチズムの思想

アルフレット・ローゼンベルク『20世紀の神話―現代の心霊的・精神的な価値闘争に対する一つの評価』吹田順助・上村清延訳(東京:中央公論社、1938)
必要があって、ナチスの論客による文明論を読む。ローゼンベルクはバルト地方のドイツ人の家系の出身で、1893年に現在のエストニアで生まれた。ナチス党の初期からヒトラーと知り合い、ナチスの重要な思想を表明した。1946年に戦争犯罪人としてニュレンベルクの裁判で処刑されている。本書は原著は第一次大戦中に構想され、1930年に出版され、すぐに激烈な論争を引き起こした。著者によると、50万部売れたとのこと。

1930年に執筆された原著の序文が、まるで教科書の記述のように、ナチズムが現れた背景を説明している。1914年にはじまった第一次世界大戦は、国家の体系だけでなく、社会・宗教・世界観における認識と価値を破壊した。人々は、最上の原則や理念がなくなった精神世界に住むようになった。しかも、そこには、集団・党派の対立や、国民的理念と国際的理念の対立、帝国主義と平和主義の対立が妥協なしに争う世界であった。「無価値」がおおう、闘争の時代が現れたのである。その世界において、大戦での戦死者を殉教者として、新しい価値観を立ち上げようとした。それは、殉教者を思い起こされる「血」という言葉によって民族を表すことをイメージの中心においていた。Rによれば、いったん死んだ血が生命を盛り返しはじめることであった。あるいは、「血の深秘的な標徴のもとに、ドイツの民族魂の、新しい細胞組織が行われるようになった」とも表現される。これによって、歴史と未来は、社会主義者が語るような階級と階級との闘争でもなく、キリスト教が語るような教義と教義との抗争でもなく、血と血の、人種と人種の、民族と民族の間の離合と折衝となる。そして、血や人種は魂の表現であるから、これは魂と魂の間の争いになる。<魂とは内面から見られた人種であり、人種は魂の外側面である>とローゼンベルクはいう。

「世界大戦において名誉と自由との・ドイツの生活とドイツの国とのために戦死したる200万人のドイツの勇士の記念のために」という献辞が付されている。