分裂病の遺伝研究の祖

Zerbin-Ruedin, Edith and Kenneth S. Kendler, “Ernst Ruedin (1874-1952) and His Genealogic-Demographic Department in Munich (1917-1986)”: An Introduction to Their Family Studies of Schizophrenia”, American Journal of Medical Genetics (Neuropsychiatric Genetics), 67(1996), 332-337.
同じ雑誌に掲載された、リューディンによる分裂病の遺伝研究を取り上げた研究。著者の一人は、リューディン家の子孫と結婚したのだろうか。

現代の医学者たちが、過去の医学に対して目が向けられない知的理由の一つが、「悪しき現在主義」である。たとえば、過去の治療の検査を見たときに「二重盲検でない」とか、過去の診断を見た時に「操作主義的でない」といった、現在の方法論と現在の診断の方法を絶対視してそれ以外に目を向けない態度が目立つ。もちろん、こういう方法を守ることを学んだばかりの若い研究者や、そういう研究の作法に従うことに夢中になって、それを本質的な問題を取り違える凡庸以下の学者が一定数いることは仕方がない。アメリカやイギリスだと、医学史の熱心な研究者に、偉大な医学者や学部長クラスが今でも多いことは、悪しき現在主義から離れることができる医学者に、医学史の本物の愛好者が多いことを示唆している。

リューディンとその一味が「経験的遺伝予後」の研究をする方法が説明してあった。私は最初に内村祐之の八丈島調査を知ったから、教室をあげて全員が参加するようなお祭り型の研究をなんとなく予想していたけれども、リューディンの部局では、一人の研究者がすべての調査対象を診断するものであった。そして調査対象の家族に手紙を書いたり、返事を記録したりするために、20人の女性タイピストがやとわれてタイプを打ち続けていたという。基本、訪問は自転車であったが、1930年代から車が使えるようになった。中心はやはり精神分裂病であったが、シゾイドの研究が最も盛んであった。