アイルランド兵のシェルショック

Bourke, Joanna, “Effeminacy, Ethnicity and the End of Trauma: The Suffering of ‘Shell-shocked’ Men in Great Britain and Ireland, 1914-39”, Journal of Contemporary History, 35(2000), 57-69.
第1次大戦の兵士たちに大量に発生した「シェルショック」が、アイルランドから参加した兵士にどのような意味を持ったのかを分析した優れた論文。

第一次世界大戦がはじまってまもなく、軍隊に大規模に発生した「シェルショック」は、19世紀に磨き上げられた、男らしさと男性らしい精神についての規範の中に楔を打ち込む現象であった。この発生のメカニズムをめぐって多くの観察がされ、議論が行われた。シェルショックにかかった兵士については、もちろん同情的な意見もあったが、彼らの性格についての否定的な意見も多かった。そして、アイルランド出身の兵士は勇敢であるがシェルショックを発症しやすいと考えられていた。そのステレオタイプを裏付けるように、南部アイルランドにおいては診療を待っている患者が多かった。アイルランドの精神医療の体制は、イングランドのそれとはやや異なっており、精神病院での治療のメカニズムはうまく機能しなかった。何よりも、アイルランドからイングランドの側について戦闘に参加して、そこでシェルショックになって帰ってきた兵士たちにとって、もっとも厳しかったのは、彼らが祖国アイルランドを裏切ってイギリスのために戦ったとみなされたことであった。

実は、この記述よりも、著者が冒頭に書いている、シェルショックを起こした兵士よりも起こさなかった兵士のほうがずっと多かったこと、暴力と人殺しの生々しさと、殺される不安にさいなまれることに適応した兵士のほうがずっと多かったことを見落としがちであることに気づかされた。