アルツハイマー病とDSM-V


精神医学の歴史のブログで、アルツハイマー病をめぐる発展についてのジェシー・ベラジャーのコメントを読んだからメモした。

20世紀の初頭に発見された「アルツハイマー症」は、臨床的に観察される症状と病理検査でわかる脳の変化を結びつけることができた、精神医学の数少ない「成功」の一つであった。しかし、A症の症状も病理変化も、老化一般にみられる症状との間に鮮明に特徴的な違いをもつわけではなく、むしろ、老化に伴う機能と構造が劣化するスペクトラムの終結点と考えるべきである。この現象が、医学化され、明確な疾病であるという考えが広まったのは、1970年代のアメリカとヨーロッパで、老年医学に政府の研究資金を導入するために、通常の高齢者福祉とは区別される医学的な問題として切り出すために、そのカギとなる「疾病」が必要だったからである。(The Myth of Alzheimer’s)

DSM-Vの原案では、dementia 痴呆という言葉はスティグマを与えるからという理由で回避され、Major Neurocognitive Disorder という言葉が採用されている。この転換は、二つの理由で問題がある。まず一つは、言い換えを提唱する人々の善意は認めるが、「痴呆」の差別は、そもそも生産性が人間を測る基準となっていることからきていて、その現実に向き合わないまま言葉だけ変えて差別をなくそうというのは、ただの「言い換え」に過ぎないという一般的であり、ほとんど教科書的といってもいい問題である。もうひとつの、より重要な点は、このMajor Neurocognitive Disorder と並んで、Minor Neurocognitive Disorder も導入されようとしている。これは、症状が軽微なものを、より重要な疾病の初期症状、・前駆的な状態とみなして、そこに検査と投薬をつぎこんで、疾病ではない人々を対象にした医療ビジネスを発生させる「トロイの木馬」の何物でもない。