「阿片を用いた日本の中国侵略」

倉橋正直「阿片を用いた日本の中国侵略」『15年戦争と日本の医学医療研究会会報』7巻1号(2007年2月), 1-9.
戦前日本の麻薬政策は、これまでの研究が明らかにした範囲では、国家ぐるみで国際条約に違反して麻薬を輸出して経済的な利益を上げていた可能性が非常に高い、そのメカニズムが明らかにされなければならない問題である。日本の手を経て輸出された麻薬による中毒患者が多かったのは中国とインドであり、中国の歴史学者は20世紀前半の日本の政策を「第三次阿片戦争」と呼んでいる。この論文の著者は、日本による中国への阿片系の薬物の輸出は、19世紀イギリスの阿片政策よりも大規模で悪質なものだとしている。ポイントは、日本は世界第一の阿片生産国となり、領事裁判権を利用してモルヒネ密売人を免罪し、満州ではアヘンを専売にしたということである。歴史記述のスタイルは、典型的な糾弾型のもので、日本を糾弾する言辞がパラグラフごとに登場するという、私には違和感があるものである。その糾弾の中で、阿片への依存や中毒の意味などの重要な問題が見失われていく。しかし、この論文が取り上げている問題が非常に重要なものであることは疑いなく、著者は先駆的な研究者として、高い評価が与えられるだろう。それと並行して、より洗練された方法論と問題意識を持った歴史学者によってヴァージョンアップされた歴史記述になることが、この問題が広く知られて共有されるために必要だと私は信じている。