昭和18年にフィリピンの精神病の紹介

山下實六「比島の精神病に関する一報告」『精神神経学雑誌』47(1943), 336-340.

内村のアイヌ論文とともに、日本の精神医学が「帝国精神医学」と、それにともなう比較民族精神医学を志向する時代が始まったことを示す論文。山下實六は九大の下田門下の精神医で、マニラの陸軍病院に軍医として滞在しており、インパール作戦で失敗し上司の命令に背いた佐藤幸徳中将の精神鑑定を行ったことで日本史研究に現れている。この精神鑑定についても若干の記録があるらしいので、読んでみよう。

この「紹介」は、いずれも自身の仕事・研究というよりマニラにおけるこれまでの研究の成果を紹介したもので、英語での報告となっている。一つはマニラの精神病院の入院患者統計、もう一つは マリ・マリ(Mali-mali)なる疾患 についての報告の症例である。前線においては、これを翻訳する時間もなかったと解釈するべきなのだろうか。