スペインの世界的種痘戦略1803-13


Mark, Catherine and Jos? G. Rigau-P?rez, “The World First Immunization Campaign; The Spanish Smallpox Vaccine Expedition, 1803-1813”, Bulletin of the History of Medicine, 83(2009), 63-94.
19世紀初頭にスペインが行った、中南米、フィリピン、中国にわたる種痘の世界戦略を解説した論文。この大がかりな事蹟は、ナポレオン戦争に巻き込まれて没落していく大国スペインの事蹟として直感的にピンとこないうえに、これまで英語の詳しい文献が手に入りにくかったので、医学史の主要ジャーナルに掲載されたこの論文は、天然痘根絶についての人々の意識をかなり変えるだろう。実際、私も、この論文を最初に読んだときにはこの事蹟を知らなかった。

スペインはとりわけ人痘に熱心な国ではなかったし、中南米の植民地にも人痘が広まっていたわけではないが、1798年のジェンナーの論文の発表は、他のヨーロッパ諸国と同じように、スペインの態度をがらりと変えた。翌年には翻訳、1800年には種痘の導入が行われ、1803年にはこの技術を世界の植民地に適用するために、中南米を中心に世界に輸出する方法が論じられ、実現される。この論文は、この一大キャンペーンの全体像を解説したものであり、長いこと重宝されるだろう。

最初に問題になったのは、ワクチンを生きたまま大西洋を横断するであった。絹糸に浸して乾燥して保存する方法、ガラスの間に挟んで保存する方法などもあったが、結局実行されたのは、生身の人間に植え継ぎながら保存する方法であった。歴史上の「人体実験」の時は犯罪者か死刑囚が選ばれることが多いが、彼らは天然痘にかかってしまっているので役に立たないから、選ばれたのは孤児であった。さまざまなキャンペインを合計して合計62人の孤児の間で植え継ぎをしながらワクチンを長距離移動する仕掛けであった。彼らの取り扱いは良かったが、それでも4人(6%)が死亡している。

巣像は、あまり良い画質ではないが、この世界的種痘の地図。