ピーター・ブラウン『古代から中世へ』

ピーター・ブラウン『古代から中世へ』後藤篤子訳(東京:山川書店、2006)「貧困とリーダーシップ」27-70; 「『中心と周縁』再考」 71-94; 「栄光につつまれた死」95-133.
以前にも触れたことがあるが、ピーター・ブラウンは私のヒーローの一人である。古代末期の病院という施設のことを少し調べる必要があったとき、たまたまブラウンのこの文献が目に留まったので読んでみた。ブラウンの議論を読むといつでも深い思索に誘われる。

キリスト教の思想から貧者の世話という制度がそのまま現れるというわけではなく、人々を市民と非市民にわけるのでなく、富者と貧困者に分けるという思想と実践には、深い社会的変容がともなった。 1) 教会は貧者の世話をローマ帝国に託されてそれにかわって免税などの特権を得たこと、2) 教会は貧者のイメージを極端にして、赤貧に洗われているもののように表象したが、むしろ脆弱性を持った中間層と考えたほうがよく、たとえば保護者で稼ぎ手である夫・父を失った寡婦や孤児などが典型だと考えるべきである、3) 貧困者の処置を通じて、教会の司教は行政の機能を果たすと同時に、行政に宗教の意味合いが与えられるようになったこと、4) そして、神と信徒の垂直的な関係は富者と貧者の関係に投影されて、貧者は富者に絶対的に依存するようになり、市民の間に存在した皇帝も市民も同胞であるという考えを侵食したが、それと同時に、キリスト教徒は結束しており、神は貧者に宿り虐げられた人間の形をとるのだという思想と共存していた。これを、垂直性と結束性の緊張と表現している。病院という組織は、このような仕組みで考えるのよくわかるのか。

ほかの論文もよかった。地中海世界の中心と周縁を論じたものは、少し参考にした。