島木健作「癩」

島木健作「癩」
島木健作の「癩」。「青空文庫」に掲載されていたものからPDFを作り、iPad で読んだ。

主人公は共産党員で、政治活動のために投獄され、監獄で喀血して結核患者として病者用の別棟に移される。隣の病室には、もう一つの感染症であるハンセン病の囚人たちが収容されている。そこに、昔の共産党の同志で、何度か会って尊敬していた人物が新たに入ってくるというストーリーである。ハンセン病で隔離された者たちの性欲と食欲の強さ、動物のような浅ましさに対比して、昔の同志が自分の病気(「肉体が腐っていく病気」)を知りながら、転向も自殺もせずに生きていこうとしている矜持が対比的に描かれる。

監獄の中の、しかも一般の囚人からさらに隔離された病棟という人目につかない世界の暗黒を描いたこと。
そこで、結核とハンセン病という、当時の人々の意識の中で大きな意味を持っていた二つの病気を描いたこと。
結核は美しい病でハンセン病は醜い病という当時のステレオタイプに合致している部分もあるが、むしろ、醜い人格となり下がったハンセン病の患者たちに対比して、同じハンセン病でもあるのに、政治的にも倫理的にも凛とした生き方を保つ同志が強い印象を与える。
やはり面白いのは、政治のモジュールと感染症のモジュールの重なりである。共産党の政治活動のために監獄に入るというモジュールと、結核やハンセン病にかかって、監獄の中でさらに隔離されるというモジュールが一致して成立した世界が描かれている。当時、いずれも国家の政策に基づいて投獄・隔離されていた左翼活動と結核・ハンセン病を一致させたところが、二つの病気を公の存在にするもう一つの仕掛けであったのだろう。