『陸軍軍医学校五十年史』



陸軍軍医学校『陸軍軍医学校五十年史』(1936; 再刊、東京:不二出版、)
日本の陸軍の軍陣医学の歴史を研究したいという学生の推薦状を書くために、問題のあたりをつけようと思って『陸軍軍医学校五十年史』に目を通す。昭和11年に刊行されたものだが、731部隊の研究のブームのせいもあって、不二出版から再刊された。

基本的な情報を提供する以外に731部隊の研究にどの程度役に立つかは分からないが、非常に価値が高い書物であって、軍陣医学の色々なことが分かる。冒頭の写真がまず素晴らしい。近代化とハイテクについては、手術風景、実験室を写した写真がいい。衛生飛行機の写真が多いのは、この書物が最初に書かれた時期が、戦傷者の移動に飛行機を用いる革命的な新技術の導入と重なっていたからだろう。その一方で、日露戦争の時に前線に近い病院で篤志看護婦人が包帯の再生作業を行っている一連の画図は、ハイテクだけではなく、国民や社会ともつながっていた軍隊のあり方を示唆している。本文も貴重な資料が多く、「御前講義集」はすべて収録されており、講義で使われた興味深いデータなどが添えられている。また、『陸軍医学会雑誌』『軍医団雑誌』に陸軍の軍医が投稿した論文は一覧ですべて見ることができるようになっている。いまの大きな仕事が終わったら、一日、ぼうっとしてこの本を眺めて過ごしたいなあと思う。

画像は歩行の効率の生理学的な測定と包帯の再生。