通経薬と催淫・生殖

Evans, Jennifer, “’Gentle Purges corrected with hot Spices, whether they work or not, do vehemently provoke Venery’: Menstrural Provocation and Procreation in Early Modern England”, Social History of Medicine, vol.25, no.1, 2012: 2-19.

月経回復剤・通月剤は英語ではemmenagogue といい、広い地域において古代から存在している薬のジャンルである。この薬が処方され売られるときに、つけられた名称のもともとの意味としては、「月経を回復する薬」「止まったり滞っている月経を再び通じる薬」という意味の語が選ばれた。Emmenagogue は、ギリシア語の「月経を引き出す」という意味であるし、近世日本では「三十日丸」などという名称で売られた。ここまで書くと、少なくともこのブログの読者のほとんどが、「それはつまり堕胎薬のことであった」というつながりを期待するだろうし、同時代人も歴史学者も、そういうつながりを作ってきた。研究者によっては、結果的に、通経剤は堕胎薬の別名であるといわmばかりの研究をしているものもいる。このつながりを作ったヒストリオグラフィは基本的にはフェミニズムと言ってよく、女性が中絶する権利とその過去が歴史学者の重要な関心であったときに、「通経薬とはすなわち堕胎薬のことである」という思い込みが作られた。これはフェミニズムが作り出した研究上の歪みであった。

この論文が主張していることは、通経薬にはもちろん堕胎薬として使われることもあったが、それと少なくとも同じくらい、月経を出す薬としての利用も重要であったという当たり前のことであり、月経を出すということはつまりどういうことかということを分析した論文である。通経薬は、月経―生殖―繁栄という道筋を女性がたどるために重要な役割を果たしていた。つまり、月経から生殖という道筋と、堕胎という道筋と、二つの二方向・正反対の方向のために通経薬は使われていた。そこで組み合わせて用いられた下剤と温めは、性的に興奮させる催淫作用もあると考えられていた。タイトルの言葉は Felix Platter の言葉で、そのような関心をあらわしている。通経剤は、女性を催淫からはじめて生殖に至らせる薬でもあったのである。

生殖は少なくとも中絶と同じくらい重要であったことを示し、女性が自己決定してきたのは中絶だけであったわけではないことを私たちに思い出させる、いい論文だった。