アメリカの美容整形と日系移民

Haiken, Elizabeth, Venus Envy: A History of Cosmetic Surgery (Baltimore: The Johns Hopkins University Press, 1997)

美容整形の歴史についての最初の洗練された書物である。20世紀のアメリカとその影響圏を中心としている。「マイケル・ジャクソン・ファクター」と題された第5章は人種と美容整形の問題を取り上げている。アメリカ国内では1923年の Fanny Brice という著名なユダヤ人の女優が鼻を整形して派手なニュースを作りだした。1926年には、ボストンに住む日本人男性がアメリカ人女性と恋に落ちて、アメリカ人の両親を説得するために、顔を整形することを決意した。Shima Kito となのる人物は、日本人に特徴的な目とまぶたを整形し、上を向いていた鼻を直、たるみがあった下唇をひきしめて、日本名を英語にして William White と名乗った。これによって二人は結婚して幸福に暮らしたという記事である。ある医者は、1938年までに2万人の日本人が目の整形をした、日本人は目の形のせいで射撃者になれず、知能は高いのに航空事故を良く起こすと言っているが、これはおそらく根拠がない記事だろう。第二次大戦後、アメリカは日本の占領、朝鮮戦争ベトナム戦争と、東アジアと東南アジアに深くかかわることになり、アメリカ映画と雑誌は大きな影響を与えた。日本でも「十仁」という美容整形外科の医院がチェーンとなり、一日に1380件の美容整形を「エリザベス・テイラーのようになりたい」という女性にほどこしたこともあった。これは、韓国、ベトナムにも拡散し、なかには東京で手術をしたり、あるいはベトナムに支店を出すこともあった。この時期には、望ましからぬ容姿や願望をしているとノイローゼになり、美容整形はこの病的な精神状態から解放して人に幸福をもたらすという、精神医学・心理学的な正当化が行われるようになった。

生の顔だとノイローゼになり、美容整形が幸福をもたらすという決まり文句が、どうしてもぴんとこない。美容整形によって幸福になることは全く問題がない。私が気になっているのは、それは「美容整形が可能にした幸福」とともに生きなければならない一生を選択するということである。ううむ。