Peter Campbell


London Review of Books という隔週の書評誌があって、イギリスの大学の学科のコモンルームにはTLSやTHESなどと並んで一緒に必ず置いてある。書評紙といっても、書評の形を取った評論と云うのが正確で、学術誌の書評とはだいぶ違う。まず長さがだいぶ長く、学術誌は長くて1000語くらいであるのに対し、LRBは短くて3000語、長いものは5000語くらいある。書き手も、研究者というより、知識人のラインアップといったほうがよい。内容も、精確さより的確さ、要約よりも洞察が前面に出た感じがするスタイルで書かれている。この書評紙から私は非常に多くのことを学んだと思う。書評を書くということだけでなく、学会やセミナーでの質問やディスカッションはもちろん、学術論文での先行研究の批判など、対話的に行われる学問の営みの作法を私が学んだのは、指導教官とLRBからである。

LRBの一面はピーター・キャンベルのイラストで、2011年に彼が亡くなるまで、毎号にわたって彼の作品が一面の表紙だった。彼の作品を集めた画集が出て(そしてLRBで広告されていて)、研究費では買えないし、少し高価な本だったけれども、思い切って買ってみたら大成功だった。自分の学生時代から中年までの知的なアルバムのような価値がある。書評紙の表紙のイラストが続くだけといったらそれまでだけれども、多くのイラストが記憶からよみがえり、自分が愛読した書評がぽつぽつと目に留まった。作品の主題は、イギリスの街や田園の何気ない風景、さりげない示唆がこめられているような室内の光景である。

画集はこちらから購入できます。文中でも触れた最後の作品もアップしておきました、