16世紀ロンドンのペストと富裕層向けの演劇

Smith, Milissa, “Personification of Plague in Three Tudor Interlude: Triall of Treasure, The Longer Thou Liueth, the More Foole Thou Art, and Inough Is As Good As a Feast”, Literature and Medicine, vol.26, no.2, 2007: 364-386.

後期中世から近世にかけて流行したペストは、もともと文学作品にあまり現れるものではないが(面白いポイント!)、1563年のロンドンのペストは、その数年後に書かれた interlude に盛んに取り上げられる。議論の核となるポイントは、interludeの社会階層の問題であって、このジャンルの演劇は、富裕層たちが私邸の宴会などで行うものであり、富裕層が持とうとしてペストに対する「ファンタジー」であると読めるということである。1563年のペストは、ロンドンの人口の1/4にあたる17,000人を斃したが、それが重要であるのは、いつもの流行と違って、ロンドンの中心部という社会階層が高い人々が住む地域で流行が激しく、いつもは多くの被害者が出る低階層者が住む周辺部の被害は小さかったことである。この状況に対して、interlude の上演を観るような富裕層は、ペストは悪しきものを処罰する存在であるというファンタジーを表明した。ことに、interlude においては、劇を上演する俳優(といえるのだろうか)は、観客たちの中をかきわけるようにして舞台に現れたので、大流行のあとで、死と処罰の擬人化が自分の傍らを通る経験は、このファンタジーの形成と深い関係があった。